60の崖と準備①|定年後の「収入の崖」と備え方
主に50代シングル会社員の定年前後の“気になる不安”に寄り添い、
年金・暮らし・働き方・終活まで制度に基づき解説しています。
実務経験と資格に基づく、わかりやすい情報発信を心がけています。
※この記事は「60の崖と準備」シリーズの第1回です。収入・健康・孤独・役割など、定年前後に訪れる変化を8回にわたって整理しています
はじめに|60代の“収入の崖”は想像以上に急です
定年が近づくと「そろそろ一息つけるかな」と思いたくなるものです。しかし、現実には多くの人が60歳前後で大きな落差に直面します。それが「60の崖」です。
その落差とは、仕事・収入・健康・人間関係・役割──長年続いてきた生活の前提が、ある日を境にガラリと変わる。まるで歩き慣れた地面が突然なくなるような感覚に驚く方も少なくありません。
今回は、その中でも最も現実的で、そして最も対策しやすい「収入の崖」を取り上げます。
<この記事の目的>特に定年前後は、収入支出で高低差がある事を知り、あらかじめ備えておくことで安心な定年前後とすることができます。
読者のお悩み整理|こんな不安はありませんか?
- 退職後の収入がどれくらい減るのかイメージできない
- いつまで働けばいいのか分からない
- 再雇用の給与がどれほど下がるか不安
- 退職金をどう使えばよいかわからない
- ひとり暮らしなので、収入減のダメージが直撃しそう
- 老後破綻の記事を読むと自分のことのように思えてしまう
実際に人事担当で定年の案内をする場合、質問はやはりお金のことが中心になります。
再雇用を選択する場合、その給与額、高年齢雇用継続給付、年金の支給停止額(特別支給の厚生年金が受給できる年代の方でした)の見込み額一覧を作成したところ一番興味を示されていました。
こうした不安を解消するには、まず「収入の崖の実態」を正しく把握し、50代のうちに準備を進めることが必要です。
FPとうかの解説|50代と60代で起こる“違う種類の崖”
■50歳の崖は「キャリアの崖」
50代前半で訪れやすいのは、役職定年・異動などによる“キャリアの崖”。会社員という立場は続くため、環境の変化はあるものの、会社員であることは同じため、生活が一気に変わるわけではありません。
■60歳の崖は「人生の構造が変わる崖」
一方で60代になると、次のように人生そのものが大きく揺れ動きます。
- 会社という「居場所」がなくなる
- 再雇用で待遇・収入が大きく下がる
- 年金受給開始まで収入ゼロ期間ができる可能性
- 人づきあい・役割が一度に変わる
- 体力・健康が落ち、自分で守らねばならない
会社員を卒業することが頭で分かっていても、最初に直撃しやすいのが「収入の急降下」です。
収入の崖の例(モデルケース)
たとえば現役時代の年収が700万円のシングル会社員の場合、
- 60歳:退職金2000万円+再雇用で年収350万円
- 退職金で住宅ローンを全額返済
- 65歳:年金 月15万円台(年180万円ほど)
上記のケースの場合、想定される「収入の高低差」は以下の通りです。
山①(60歳):退職金2000万円入金
谷①(60歳):再雇用で収入半減
谷②(60歳):住宅ローンを全額返済
谷③(61歳):高い住民税が課され、手取り減
※住民税は前年の収入(700万円)を元に計算される
谷④(65歳):再雇用終了、年収350万円→180万円に
山②(65歳):高年齢雇用求職者給付金を受給
谷⑤(65歳):健康保険料を自分で納付
谷⑥(66歳):高い住民税が課され、手取り減
※前年の収入(350万円)を元に計算される
定年時にまとまったお金が入ったかと思えば、その後毎月の収入が減り、人によっては65歳より前に完全リタイアしたり、年金の繰り下げのため収入ゼロの時期があったりと高低差が激しいです。
そのため、現役時代の生活水準を維持したまま突入すると、貯蓄が一気に目減りしてしまいます。特に収入ゼロ期間を想定される場合、この高低差にかなり影響します。
住宅関連の出費が大きくなりがちですが、住宅ローンの心配がない方でも、退職金や貯蓄をどう活かすかという視点では、「収入の崖」とあわせてお金の残し方・使い方を考える必要があります。
年金と貯蓄が目減りする「資産の崖」については、60の崖と準備⑥|「資産の崖」減らす不安に負けない資産の使い方で詳しく解説しています。
注意点|実は「高収入層」ほど崖が深い理由
老後破綻というと「低収入の人の話」と思われがちですが、実際には現役時代に収入が多かった人ほど、以下のような要因で“下がった後の落差”に適応できず、破綻予備軍になりやすい傾向があります。
- 固定費が高い(住宅・車・保険・教育費など)
- 生活レベルを下げられない
- 退職金でリスク投資をして失敗しやすい
- 「自分は大丈夫」という思い込みが強い
つまり、高収入層ほど「収入の崖」が深く、衝撃も大きいのです。
特に公的年金は標準報酬の上限があります。現役時代に平均の標準報酬が60万円台後半の方と150万円の方はどちらもその標準報酬の上限に該当するため、それを元にした公的年金額は大差はありません。
年金の制度があまり整っていない企業にお勤めの高収入層は、私的年金の制度を活用た備えが必要です。
落とし穴|50代シングル会社員に特有のリスク
1. 生活水準を切り替えられない
外食・旅行・趣味の支出が現役時代の感覚が残りがち。 対策は、定年後の生活費で1か月試してみる生活実験が効果的です。
2. 健康リスクが直撃する
家族のサポートがないため、病気はそのまま経済難につながります。 健康投資(運動・食生活・健康診断)+医療保険の見直しが必須です。
収入面の備えとあわせて、将来の医療費や介護費にも関わる「健康の崖」も気になるところです。健康面のリスクについては、60の崖と準備②|人生を一瞬で変える「健康の崖」で整理しています。
3. 住宅ローン・賃貸問題
定年前に“完済できないローン”を残すと一気に赤字化します。 住み替えは会社員のうちが最も有利です。
賃貸でも購入いずれも会社員の肩書があるうちの方が選択肢も多く手続きがスムーズです。
4. 詐欺・怪しい投資話に狙われやすい
退職金が入り、時間ができると悪質な勧誘が寄ってきます。 基本ルールは「元本保証・高利回り」は存在しないです。
また、SNSで有名人が個人を対象に「あなただけに特別」と投資の勧誘をすることはまず無いです。
5. 長生きリスク(生存リスク)
シングルに特有の「何かあったら誰が助けてくれるのか」問題です。 年金繰下げ・長寿保険・生活設計の見直しが重要です。
まとめ|崖を“崖”のままにしないために
60代の収入変化は、誰にでも訪れる人生イベントです。しかし、崖に落ちる前にパラシュートを準備しておけば、着地は大きく変わります。
- 50代のうちに収入と支出の高低差を把握する
- 年金と再雇用の収入を具体的に試算する
- 定年後生活を1か月シミュレーションしてみる
- 退職金の使い方は“安全資産”を基本に
- 詐欺や不当投資は情報収集と疑う力で防ぐ
ざっくりとした全体像でも、全く考えないよりは不安が少なくなります。
今回お伝えした「収入の崖」は、60の崖の入り口にすぎません。次回は「健康の崖」について、さらに現実的な備えをご紹介します。
この記事を書いた人
FPとうか
ファイナンシャルプランナー1級/社会保険労務士試験合格者。 50代シングル会社員向けに、老後資金・働き方・学び直しなど「これからの人生を整える情報」を発信しています。
▶ このシリーズのまとめはこちら(60の崖と準備まとめ)
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