定年前後のマネープラン

60の崖と準備⑥|資産の崖──年金と貯蓄が目減りする生活

定年後に直面する現実のひとつが「資産の崖」です。 長年働いて築いた貯蓄や投資が、毎月少しずつ減っていく──。 収入の崖を乗り越えても、「減っていくお金」を見続ける心理的なストレスは、想像以上に大きいものです。

特に50代シングル会社員の多くは、厚生年金の受給があり、退職金や運用した分などで一定の資産を持っていても、「使うのが怖い」「老後が長いから減らせない」という不安を抱えています。
今回は、その“減る怖さ”にどう向き合い、安心して資産を活かすための準備を考えます。

数字で見る老後資産の実態

総務省「家計調査(貯蓄・負債編 2024年)」によると、 二人以上世帯の平均貯蓄額は1,984万円、中央値は1,189万円。 単身世帯では、金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査(令和5年)」によれば、 平均941万円、中央値は100万円とされています。

数字の開きが示すように、「平均値」には資産家層が含まれており、実際には多くの人が“思っているほど余裕がない”のが実態です。

このブログの読者である「50代シングル会社員」のは、それなりの期間会社勤めをして厚生年金の受給が見込め、退職金や退職年金の受け取りを期待でき、また各自で堅実に資産を築き、上記データの平均を押し上げている資産家層寄りではないかと思っております。

ただ、一定の資産を持っている人ほど「減らしたくない」という心理が強くなり、ため込み傾向に陥ってしまいます。

ついでながら、生活の柱となる公的年金も、近年の物価上昇に”物価スライド”による増額の対応が追い付いておらず、実質の価値が目減りしてはいないか・・というぼんやりした不安もあります。

参考:「家計調査(貯蓄・負債編 2024年)」(総務省)
参考:「家計の金融行動に関する世論調査(令和5年)」(金融広報中央委員会)

お金を減らす怖さと人生の満足度

長年「お金を貯める=正義」と教えられてきて、収入が途絶えることで「再生産できない」不安が強まる 。また「長生きリスク」や「医療・介護費」、さらに「物価高騰」への漠然とした恐れなど、不安をあおる要素ばかりです。そのため、「使えない」「楽しめない」状態に陥ります。

しかし、お金を使わないこと自体がリスクでもあります。資産を減らすのが心配なあまり、この世を去る時に一番お金持ちになっていた、という話もよくあります。

DIE WITH ZERO(ビル・パーキンス著)では、「お金は経験に変えてこそ意味を持つ」と説かれています。
つまり、資産を減らさないことよりも、「いつ・どのように使うか」が、人生の満足度を左右するのです。

現実の数字から見る“取り崩し”の実態

総務省「家計調査(家計収支編 2024年)」によると、単身世帯の消費支出は平均で月約17万円の資産を取り崩して生活しています。 また、65歳以上の単身無職世帯の平均収入は月約13.4万円。内訳は90%以上が公的年金となっています。

消費支出と平均収入の比較対象が完全一致していないものの、公的年金だけでは十分とはいえず、月数万円の赤字となりそうなことが数字から感じ取れます。

その補填となる退職金や企業年金、私的年金もその会社の制度や個人の現役時代の準備によって、かなりばらつきがあります。

もちろん、年金だけで十分暮らせる方もいらっしゃいますが、多少は資産を取り崩し、生活費の補填とされる方は多めでは、と想定しております。

今まで築いた資産は、生活費の補填としての面もありますが、さらに「資産をどう賢く役立て”生き金”とするか」が老後の生活の質を大きく左右するのではないでしょうか。

参考:「家計調査報告(家計収支編 2024年)」(総務省)

資産を減らさず“活かす”発想へ

老後資産の本質は、「守ること」だけではなく「生かすこと」。 DIE WITH ZEROの考え方をヒントにすると、 お金は「健康」「時間」「人との関係」がそろっている時期にこそ、最も価値を発揮します。

  • 60代前半は“経験への投資”の黄金期
  • 健康維持、趣味や旅行、学び直しや推し活に使うことで心身の活力を保つ
  • 「使うこと」が社会とのつながりを生み、孤立を防ぐ

“使う勇気”が、ご自身の生活満足度を上げ、心身の活力を保った暮らしは次の安心を作ります。折角長年頑張って築いた資産です。”生き金”として大切に使いましょう。

安心して使うための準備

取り崩しの不安を減らし、”生き金”にするには、「見える化」と「仕分け」が効果的です。

  1. キャッシュフロー表を作る
     - 年金受給額・生活費・医療費・税金を年単位で整理
      物価上昇もある程度織り込んで計算することも大事です
  2. 生活費を3層に分ける
     - 必要生活費(固定費)
     - ゆとり費(交際費・趣味・推し活)
     - 余暇費(旅行・贈与など)
     銀行や証券の口座自体を目的別に完全に分けて管理する方法もあります。
     ”ゆとり費”は老後のステージにより”医療関連費”にスライドするという設定も
     ありかもしれないです。
  3. ルールを決める
     - 「生活費2年分を現金で確保」
     - 「年間3〜4%を上限に取り崩す」
     ②を含め、どの口座をどの目的で使い、年にいくら使うのかを予算化してみる
     運用している限りは暴落の時期もありますので、それに備えた現金の確保も大事です

これにより、「お金を減らす」から「お金を計画的に使う」へと意識が変わります。

安心を保ちながら資産を活かす方法

資産を“生かして使う”には、守りの運用と仕組み化がカギとなります。

  • NISAの活用:安定配当株・バランス型投信で分散、上限金額まで活用する
  • 生活費と運用資金を分ける:取り崩しを見える化、例えばNISA口座は最後まで手を付けないと決め、そのまま運用を継続する
  • リースバック・リバースモーゲージ:住まいを活かす。持ち家を定年を機に賃貸に出し、受け取る家賃の範囲で定年後の暮らしにあった賃貸を借りる方法もあります
  • 信託・死後事務委任契約:資産の“出口”を整える、まずは口座情報の棚卸と整理から

「資産を使う安心感」を得るには、数字よりも仕組みが重要です。また、運用している資産の一部については、物価高対策も兼ねて定年後も運用の継続を検討することをお勧めします。 

FPとうかの場合:経験への投資を意識し始めました

今まではNISAを使った積み立て運用、iDeCoに加入など”増やす”方に意識が強く向いていましたが、お金には使い時があることを実感しました。

”山寺(山形県)に行きたい”と言っていた親が年齢を重ね、いつの間にかあの1000段を超える石段を上がるのはもう無理なのでは・・?という状態になっていたのです。(要介護も要支援もついておらずそれなりに元気ですが。)

それに気づいてからは、”経験への投資”、特に旅行などに行けるチャンスがあったら躊躇せず行っておこうと思い、最近は休暇が取れる状況であれば、以前のように遠慮することなく休んでいます。

新型コロナのようなパンデミックや災害、親の介護問題や自分の健康問題などいつ”それどころではない”事態になるか分かりません。

以前50代の後悔に学ぶ⑤「やりたいことに挑戦しなかった」人生を回避する方法──小さな一歩が未来を変えるでも”やらなかった後悔”について書きましたが、後に振り返って、”やっておいて/行っておいて良かった!”と思えるように日々過ごしたいと模索しております。

資産は”安心”と“経験”のため使う

資産の崖とは、「減ることへの恐れが、人生の行動を止めてしまうこと」。 しかし、お金は「減らすため」ではなく、「安心して生きるため」、さらに「経験をするため」に使いたいものです。

50代の今こそ、資産の見直し時期です。場合によってはさらにもう少し増やす計画も立てられます。

  • 収支の見える化
  • お金の使いどころの明確化
  • 「守る」から「生き金として使う」への発想の転換

これができれば、“資産の崖”は怖くありません。自分らしい満足度の高い活かし方ができます。

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA