60の崖と準備②|人生を一瞬で変える「健康の崖」
主に50代シングル会社員の定年前後の“気になる不安”に寄り添い、
年金・暮らし・働き方・終活まで制度に基づき解説しています。
実務経験と資格に基づく、わかりやすい情報発信を心がけています。
※この記事は「60の崖と準備」シリーズの第2回です。収入・健康・孤独・役割など、定年前後に訪れる変化を8回にわたって整理しています
はじめに|「健康の崖」は静かに近づいてきます
「60の崖と準備」シリーズ第2回のテーマは「健康の崖」です。
収入や肩書きほど目に見えないのが「健康の変化」ですが、いったん崩れはじめると、生活全体に一気に影響が広がります。
定年を迎える60代には、仕事の区切りだけでなく「心と体の状態」が大きく変わるタイミングでもあります。
<この記事の目的>元気でいられる期間を少しでも伸ばすために、「健康の崖」がどのように起きるのかを知り、50代のうちから備えておくことがとても大切です。
読者のお悩み整理|こんな不安はありませんか?
- 最近、疲れやすくなったり、階段がつらくなってきた
- 定年後も元気でいたいが、何から始めればよいかわからない
- 会社の健康診断がなくなったら、自分で管理できるか不安
- 一人暮らしなので、もし倒れたらどうなるのか心配
- お金や年金のことは調べているが、健康面の対策は後回しになっている
50代の知人との話題は健康問題が多くなりがちで、「健康の崖」を意識しはじめたサインでもあります。
健康状態は、医療費や働き方にも直結します。収入面の変化を整理したい方は、60の崖と準備①|定年後の「収入の崖」と備え方もあわせてご覧ください。
FPとうかの解説|なぜ60代前後で「健康の崖」が起きるのか
「60の崖」は、定年前後に起こりやすい人生の急な変化を、わかりやすく整理した考え方です。
前回は「収入の崖」を取り上げましたが、健康面の変化は、収入や資産にも直結する“土台”の問題です。
■ 健康の崖を招く5つの要因
- 加齢による筋力低下(サルコペニア)、不調
誰しも年齢は重ねますが、加齢にともない筋肉量が減ると、転倒しやすくなったり、疲れやすくなったりと、「ちょっとした不調」が生活の質を下げていきます。 - 通勤・仕事での「強制的な運動」がなくなる
現役中は、通勤・階段移動・オフィス内の歩行など、意識しなくても毎日かなり歩いています。
リタイア後は自宅をメインに過ごすため、これらが一気になくなり、活動量が急減しやすくなります。 - 健康診断の機会減少
会社の定期健診がなくなると、自分で申し込まない限り健康チェックの機会が途絶えてしまいます。
自覚症状がないまま、血圧や血糖値の上昇、脂質異常などが進行するリスクがあります。 - 食生活と飲酒習慣の乱れ
時間の余裕ができると、「つい一杯」「ついおつまみ」が増えたり、手軽な惣菜や外食が続きやすくなります。
炭水化物や脂質に偏った食事が増えると、体重増加や血糖値の悪化にもつながります。 - 生活リズムのゆるみ
毎朝決まった時間に起きる理由がなくなり、夜更かし・朝寝坊が増えると、睡眠時間は多めに取れても睡眠の質は下がり、体内時計が乱れやすくなります。
気づかないうちに、日中のだるさのため活動の減少につながることもあります。
「健康の崖」が生活にもたらす影響
「健康の崖」をもう少しイメージしやすくするために、要因と影響を簡単に整理してみます。
| 要因 | 起こりやすい変化 | 生活への影響例 |
|---|---|---|
| 筋力低下・運動不足 | 階段がつらい、つまずきやすい | 外出が減り、さらに筋力低下&孤独リスクが高まる |
| 健診機会の減少 | 血圧・血糖・コレステロール値の悪化に気づかない | 自覚症状が出たときには治療が長期化する可能性 |
| 食習慣・飲酒習慣の乱れ | 体重増加、内臓脂肪の増加 | 生活習慣病の進行、医療費の増加 |
| 生活リズムのゆるみ | 昼夜逆転気味、寝つきが悪い | 日中の活動量低下、気分の落ち込み |
また、健康状態は外での活動、人とのつながりとも深く関係しています。定年後の「孤独の崖」については、60の崖と準備③|定年後に迫る「孤独の崖」とその備え方でご紹介しています。
FPとうかの場合|「ステイホーム」で健康の崖を先取り体験
私自身、コロナ禍のステイホーム期間に「疑似・定年生活」のような状態を経験しました。
通勤がなくなり、当然外出も最低限に。休日もほとんど家から出ない時期が続きました。
通勤電車の混雑ストレスが無くなったのは良いのですが、体にはてきめんの逆効果でした。
その翌年の健康診断では、今まで問題なかった項目の数値が悪化し、結果票を見てその悪化ぶりに衝撃を受けました。
そこから、低糖質を意識した食事に変えたり、通勤再開後は靴をスニーカーに変え早歩きを心がけたりと、生活を見直したところ、次の健診では数値が以前の水準まで戻りました。
この経験から痛感したのは、「働いている日常そのものが知らず知らず健康維持に一役買っていた」ということです。
だからこそ、定年後は意識して体を動かす仕組みを作らないと、ゆるやかに「健康の崖」を転がり落ちてしまう可能性が高いと実感しています。
統計と実体験で見えた「健康の崖」の傾向
年齢とともに身体機能が落ちていくことは、さまざまな調査でも確認されています。
- 60代以降、筋力や日常生活動作の能力が低下する人の割合が増えていく
- 「食事・トイレ・着替え・入浴・屋内外の歩行」といった基本動作のうち、特に屋外歩行から弱くなりがち
- 健康診断を長く受けていない人ほど、生活習慣病のリスクが高まる傾向がある
また、人事担当で健康診断の受診管理に関わった経験からも、長年健診を避けていた方が人事や上司から言われ、何とか受診したところ、「即入院レベル」の病気が見つかるケースを何度か目にしました。
「元気だから大丈夫」ではなく、「元気なうちにこそチェックしておく」ことが、健康の崖をなだらかにするポイントです。
参考資料:令和4年度 高齢者の健康に関する調査結果(全体版)内閣府
生活を守るための5つの対策ポイント
ここからは、定年前後の健康の崖を少しでもなだらかにするために、50代から始めておきたい具体的な対策を5つに絞ってお伝えします。
1. 無理のない「筋トレ+歩行習慣」をつくる
- 通勤や買い物の中で「一駅分多く歩く」「階段を使う」など、日常にプラスの歩数を足す
- 自宅でのスクワットや簡単な筋トレを、テレビの前などで習慣化する
- いきなり激しい運動ではなく、「ほんの少し息が上がる程度」からスタートする
基本動作のうち、屋外歩行から弱くなりがちなため、まずそこから防ぎたいものです。
持病がある方や運動に不安のある方は、自己判断で無理をせず、念のため主治医に相談してから始めると安心です。
2. 健康診断を「毎年のイベント」として予定に組み込む
健康診断は費用を会社が負担している事が多く、個人負担はなかなか大きいですが、自治体などでも実施していることがあります。”攻めの健康管理”として、健康診断の予定を入れましょう。
- 会社の健診が終わった後も、自治体の健診や人間ドックを年1回の予定に入れる
- 結果票は捨てずに保管し、「去年と比べてどう変わったか」を見る習慣をつける
- 気になる項目があれば、早めに医療機関で相談する
また、異常値が出たときに「見なかったことにする」のが、健康の崖を急に深くしてしまう大きな要因です。
病気になると生活の質も下がってしまいます。恐れて放置せず、早めの対策を取る事をお勧めします。
3. 食生活を「完璧」ではなく「できるだけ良い方を選択する」を目標に
- たんぱく質(肉・魚・大豆製品)と野菜を意識して増やす
- 毎日完璧を目指すのではなく、「外食が続いた翌日は量は控えめにする」などバランスを取る
- お酒は「毎日少しずつ」より「量と頻度を決める」意識を持つ
たんぱく質は近年注目されていますので、例えば”サラダチキン””豆腐バー”などコンビニやスーパーでも手軽に購入できる食品が沢山あります。
料理が苦手な方は、冷凍総菜や宅配弁当なども上手に使いながら、「極端に偏らない」ことを目標にしてみてください。
4. 日常に「今日の用事」と「今日行く場所」を用意しておく
定年後に一気に時間だけが増えると、気づけば一日中テレビとスマホで終わってしまう、という声もよく聞きます。
- 週に数回は、決まった習い事・サークル・ボランティアなどを入れる
- 「この日は図書館」「この日はスーパーまで少し遠回り散歩」など、外に出る理由を作る
- オンラインでも構わないので、誰かと話す予定をこまめに入れておく
心と体はつながっています。小さな用事があるだけでも、生活のメリハリが生まれ、結果として健康維持にもつながります。
5. 疑似定年体験で自分の「崖ポイント」を見つける
おすすめなのは、週末や長期休暇の1日を「定年後の自分の1日」として過ごしてみることです。
- 朝何時に起きるのか
- どのくらい体を動かすのか
- 食事の内容はどうなるか
こうした「ミニ実験」を通じて、自分のどの習慣が健康リスクにつながるリスクがあるのか、どのタイミングで体を動かすと調子が良いのか、などが見えてきます。
その気づきを元に、定年後の日常生活のイメージを少しづつ作っていくのが良さそうです。
注意点|健康情報をうのみにしすぎない
健康の情報は本やネット、テレビなど、世の中にあふれています。その中には参考になるものも多い一方で、次のような点には注意が必要です。
- 「これさえ飲めば/やればすべて解決」といった極端な表現
- 医学的な根拠がはっきりしない民間療法やサプリを信じ込みすぎること
- 持病があるのに、自己判断で薬や治療を中断してしまうこと
基本的な検査や治療は、かかりつけ医や専門医のアドバイスを受けながら進めるのが安心です。
「ネットで見たから」と自己流に走りすぎないことも、健康の崖を深くしないための大切なポイントです。
落とし穴|「まだ大丈夫」と先延ばししてしまうこと
健康の崖には、いくつかの典型的な落とし穴があります。
- 「自覚症状がないから」と健診や病院を後回しにする
- 現役時代の運動量を過信して、定年後も同じ感覚で過ごしてしまう
- お金や年金の心配ばかりに気を取られ、体のケアを後回しにする
- 一人暮らしであることのリスク(倒れた時、誰が気づくか)を考えていない
「今は何とか動けているから大丈夫」と思っている間にも、体の中では少しずつ変化が進んでいます。
崖から落ちてから慌てるより、「落ちないように足場を作っておく」方が、心身ともに負担が少なくて済みます。
まとめ|健康の崖をなだらかにして、定年後の自由度を守る
「健康の崖」は、50代からの準備しだいで崖の高さをかなり低くすることができます。
- 通勤に頼らない「歩く・筋トレの習慣」を今から育てる
- 健康診断を継続し、結果を「見て終わり」にしない
- 食事と飲酒は「完璧」を目指さず「悪化させない」意識を持つ
- 日常に「今日の用事」「今日行く場所」を作り、メリハリを保つ
- 週末や長い休みを使って「疑似定年生活」を試してみる
前回取り上げた「収入の崖」への対策も、元気な体があってこそ実行できます。
「元気でいること」だけで、定年後の生活の自由度を増し、医療費も抑えることができます。
場合によっては、少し働いて健康を保ち、さらに老後のお金の不安を軽くできるという選択もでき、一石二鳥と言えるかもしれません。
次回は、第3回目のテーマ「孤独の崖」です。
特にシングルの方にとって重要になる、人とのつながり・孤独リスクについて、一緒に考えていきたいと思います。
この記事を書いた人
FPとうか
ファイナンシャルプランナー1級/社会保険労務士試験合格者。 50代シングル会社員向けに、老後資金・働き方・学び直しなど「これからの人生を整える情報」を発信しています。
▶ このシリーズのまとめはこちら(60の崖と準備まとめ)
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