50代の暮らしとこころの整え方

60の崖と準備②|人生を一瞬で変える「健康の崖」

前回紹介した「収入の崖」に続き、本シリーズ第2回は「健康の崖」に注目します。
「60の崖」とは、定年前後に待ち受ける人生の急激な変化を指しますが、健康面でも見落とせない落とし穴があり、元気で過ごせるか否かで、定年後の生活の質は大きく差がつくのです。

なぜ「健康の崖」は起きるのか?5つの要因

  1. 加齢による筋力低下(サルコペニア)
     60〜70代で 5〜13% の人が筋力低下による日常生活への支障を経験し、80歳以上では割合が一気に高まります
    参考: 厚生労働省 高齢者の筋肉減弱(サルコペニア)およびフレイル(虚弱)に関するデータ
  2. 通勤や勤務中の歩行習慣を失う
     加齢に加え、定年後は日々の通勤や業務で「あえて動く必要」がなくなり、身体活動が著しく減ってしまいます。それも①に記載したサルコペニアにつながる要因の一つとなってしまいます
  3. 健康診断の機会減少
     定年後、企業による健診制度がなくなり、年1回のチェックが途絶えてしまうことも。未受診者は死亡リスクが高まるというデータもあります
  4. 食生活の崩れ(栄養・飲酒管理が甘くなる)
     時間ができると、惰性で外食や市販の惣菜が多くなり、また翌日の仕事がないため「のんびり飲酒」が習慣化し、偏った食事による健康悪化が進みます。
  5. ストレス減による生活メリハリの喪失
     仕事のプレッシャーが消えると、早起きの必要もなくなり、「時間の緩み」が生活の質の低下を招きます。ストレスが無いのは良い事なのですが、メリハリがなく、緩んだ状態も健康状態が悪化する原因となります

FPとうかの場合:ステイホームで健康状態悪化

私自身は、新型コロナのステイホームによるリモートワーク開始と外出自粛で「まるで定年後のような生活」を経験し、休日も外出機会は一時期ほぼ無しとなりました。
その翌年、健康診断の数値(特に血糖値)が悪化したのを目にして慌てました。今まで全く気にすることのなかった”低糖質”などの文字を気にして食べ物を選ぶようになり、通勤が再開されてからはスニーカーで早歩きをするように。

それが功を奏したのか、次の健康診断では数値が改善しました。(著しく改善したわけではなく、以前の数値とほぼ同じに戻っただけです。)
その経験から、定年後はまず“健康の崖”に警戒すべきで、個人的には特に歩くことで効果がありそうと実感しています。

統計で見る「健康の崖」の実態

年齢層が上がれば健康状態は落ちてくるのは実感できますが、数字でもその傾向は示されています。

  • 筋力・機能低下:60代以上でADL(日常生活動作)依存率が5年で2.2倍に増加します。
    またADLの5種類の動作(食事、排泄、着替え、入浴、屋内移動、屋外歩行)のうち、どの年齢層でも低下する方の割合が多めなのは「屋外歩行」でした。
    参考:NIPPON DATA 80研究班 国民の代表サンプルを用いた高齢者日常生活動作の5年間の推移
  • 健康診断未受診:定期的に健診を受けない人ほど、血圧・血糖・コレステロールの指標が悪化し、死亡リスクが高い可能性が示されている
    これは人事業務で健康診断の受診管理をしていた体験からも、実感できます。健康診断の受診を渋る人が健診を受けると、即入院レベルの体調不良が見つかった事が、実際何度かありました。
    参考:産業衛生学雑誌 健診結果に基づく事業場労働者の医療機関受診につながる要因

生活を守るための5つの対策ポイント

では、実際にどのようなポイントを意識すれば良いのか、考えてみました。

1. 筋トレ&歩行習慣の継続
 意識的に筋力トレーニングやウォーキングを取り入れ、身体の“底力”を温存しましょう。
 わざわざジム通いしなくても、自宅でできるスクワットや自重筋トレなどのやり方は動画などチェックし、気軽にチャレンジできます。

2. 健康診断・フォローアップの継続
 会社の制度が終わっても、個人での定期検診や異常時の医師受診を習慣化することが必須です。定年後は特に自治体で実施している健康診断などの情報を把握し、上手に活用しましょう。

3. 栄養バランス意識の食習慣
 たんぱく質や野菜の摂取を意識し、ネットなどの簡単レシピサイトなどを活用し自炊メニューを習得してみる。必要なら宅配サービスや栄養相談を活用して習慣化をしておく。

4. 日常にメリハリを持たせる仕組みづくり
 趣味やボランティアなど、朝起きて「やりたいこと」を入れる構造を予め作っておく。老後に必要な「キョウヨウ(今日の用事)」「キョウイク(今日行くところ)」を意識して準備することが大事です。

5. 疑似定年体験を活用したセルフチェック
 現役のうちから、週末1日を“未来の自分の生活”に見立て、健康状態や生活リズムの変化点を観察する習慣も有効です。

まとめ「健康の崖」はじわじわ来るから油断禁物

「健康の崖」は、特に定年直後は見た目には変化が乏しいですし、個人差がかなりありますが、加齢に伴いどこかにストンと落ちるポイントが誰でも確実に存在します。
50代の今こそ、自分自身の生活リズムや健康指標を見直し、定年後の環境変化に「備える」時期です。
前回ご案内した”収入の崖”も、健康であれば少し働いて収入を補うことも可能となり、やっぱり「元気があれば何でもできる」なのかな、と思っております。

次回は、第3回目「人間関係の崖」——シングルには特に対応が重要になる、孤独や役割喪失による精神的ダメージにも目を向けていきます。

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