定年前後のマネープラン

60の崖と準備⑤|居住の崖──住まいと地域に適応できなくなる現実と備え

現役のうちは、オフィスまでの通勤経路が居住地を決める上では大きなポイントでした。しかしシングルは定年後にどこに住むかは基本的に自由です。むしろ買い物や病院などの利便性が居住地のポイントとなっていきます。

以前「定年後の住まい戦略:シングルが意識する2つのステージ・最適な選択肢」という記事では、定年後は2つのステージ(①”充実した暮らし”を実現するステージ、②他者によるケアが必要になるステージ)を念頭において検討することをお勧めしました。

今回は、空き家が増え続ける傾向への対応や年齢を重ねてからの住み替えで、新たな環境への適応が難しくなるなどの「居住の崖」とその準備についてお伝えしたいと思います。

居住の崖とは?

定年を意識し始める50代シングル会社員にとって、「どこに住むか」は老後の安心を大きく左右します。

家を持っていても、継ぐ親戚が居なければ将来その家が「空き家」となってしまうこと、また定年後に移住しても地域にもなじめず孤立してしまうリスクもあります。これを「居住の崖」と呼んでおります。

今回は、社会的課題である空き家問題を踏まえつつ、個人としてどのように備えればよいのかを考えていきます。

居住の崖①:空き家率も高齢単身世帯も右肩上がり

総務省の「住宅・土地統計調査(2023年速報)」によれば、全国の空き家は約900万戸、空き家率は13.8%と過去最高を記録しました。

また65歳以上の高齢者がいる世帯の32.1%は単身世帯で、グラフは右肩上がりです。単身で老後を暮らす方は全く普通の事になりました。

参考:令和5年住宅・土地統計調査(総務省)

そのため既に地方や郊外を中心に「引き継ぐ人のいない家」が急増することが予想されます。50代の皆様ですと、現時点では親世代の地方の実家などが該当する人が多そうです。

これは社会全体の課題であると同時に、「自分の家も将来は空き家になるかもしれない」という現実が待っていそうです。

居住の崖②:定年後の住み替えはなぜ難しいのか

「住まいの事は定年後に考えればいい」と思う人も多いですが、実は遅すぎます。住宅は購入にしてもリフォームにしても大金が動きます。

住宅ローンやリフォーム資金は「会社員」という信用力があるうちにしか借りにくく、定年後では審査が厳しくなる傾向があります。

国土交通省「住生活総合調査」でも、高齢世帯が住み替えやリフォームを希望しても、経済的に実現できない例が多く報告されています。つまり、定年前に準備を進めることが、老後の安心への分岐点となるのです。

参考:令和5年住生活総合調査(国土交通省住宅局)

居住の崖③:引き継ぐ人がいない家はどうなるのか

シングルの場合、自身が高齢者施設に入る、あるいは亡くなると、その家を引き継ぐ人がいないケースが想定されます。

空き家を放置すれば「固定資産税の負担」「雑草や倒壊リスクによる近隣トラブル」に発展し、さらに「空き家対策特別措置法」によって管理不全空き家に指定されれば、固定資産税の優遇が外れ課税負担が増えることもあります。

例えば、200㎡以下の小規模住宅用地の場合、固定資産税の課税評価額が1/6と減額されていたのに、管理不全空き家と指定されたら固定資産税の優遇が外れ、税額が6倍にもなってしまいます。

参考:固定資産税等の住宅用地特例に係る空き家対策上の措置(国土交通省)

地方の実家などで、居住の予定がない場合は下手に持ち続けるより、片付けや諸々の手続きをする余力のあるうちに、また自分自身の家についても出口戦略を検討することをお勧めします。

出口戦略には以下のような例があります。

出口戦略の例:

  • 売却(元気なうちに動くことが大切)
  • 賃貸(リースバックやシェアハウス化なども選択肢)
  • 空き家バンクの活用
  • 自治体やNPOへの寄付
  • 信託や死後事務委任契約で処分を託す

どのような手段を取るかはその住宅の立地条件、引き継ぐ親戚がいるかなど個別に状況は異なりますが、自治体の空き家対策などの情報収集をして、いくつかプランを考えるのも良いと思います。

居住の崖④:地域に適応できなくなるリスク

また「家があっても地域に適応できない」というリスクも深刻です。定年を機に実家のある地域に戻っても、現役時代の居住地と諸々違いがあって戸惑う事も多そうです。

  • 郊外や地方では、公共交通の縮小により買い物や通院が困難に
  • 独身は地域コミュニティとの接点が薄く、定年後に孤立しやすい
  • 情報伝達がデジタル化(LINEグループ、地域アプリなど)しており、ITリテラシーが低いと情報から取り残される

これは「孤独の崖」「アップデートの崖」とも連動し、生活の質を大きく下げる要因になります。

居住の崖への備え方:安心につなげる解決策

居住の崖の備えは、まずは「早めに情報収集」が大事だと思います。

  • 情報収集:家がある地域の自治体などの対応策、住み替えの費用など情報収集
  • 出口戦略を準備:空き家になる可能性を踏まえ、売却・賃貸・信託などの選択肢を検討
  • 定年前に決断:ローン、リフォーム、住み替えは会社員の信用力があるうちに
  • 地域適応を始める:徒歩圏に生活インフラがある地域を選ぶ、地域活動に顔を出す、LINEなど地域で使われるデジタルツールに慣れておく

また、空き家が増えるということは、東京都心の中心部でない限りは「お手頃価格」の家も流通が増えるのではないかと思います。中古住宅の市場なども要チェックです。

FPとうかの場合

現在は都心に日々通勤しておりますが、人の多さに若干疲れも感じる日々です。そのため、定年後は都心に出かける事はあっても、居住の選択肢は無いだろう、と思っています。

とはいえ、自然あふれる暮らしより買い物や病院に便利な方が良い・・となると森永卓郎さんが生前に言われていた「トカイナカ」を居住地に選択し、状態の良い中古物件を生活に合わせたリフォームをして住む、という選択肢もあるのではないかと思います。

個人的に注目しているのは「完全自動運転車」の普及です。(ちなみにペーパードライバーです。)これが一般的になれば、「駅近」を気にしなくてもいいのかも?と思っています。
あとは短期滞在でいいので、ウーブンシティを体験してみたいなぁと思っています。

まとめ

居住の崖は「住宅そのもののリスク」と「地域適応のリスク」が重なった複合課題です。

放置すれば負債や孤立につながりますが、定年前から準備を進めれば安心へと変えられます。

50代シングル会社員にとって、「自分の家の最終出口を考え、地域に適応する準備を始めること」こそ、定年後の安心につながる最大の備えです。
次回は「資産の崖」をお伝えする予定です。

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