FPとうか|1級FP技能士・社労士試験合格
主に50代シングル会社員の定年前後の“気になる不安”に寄り添い、
年金・暮らし・働き方・終活まで制度に基づき解説しています。
実務経験と資格に基づく、わかりやすい情報発信を心がけています。

※この記事は「60の崖と準備」シリーズの第4回です。収入・健康・孤独・役割など、定年前後に訪れる変化を8回にわたって整理しています

はじめに

50代に入ると、「まだまだ現役」と思いながらも、定年や退職が少しずつ現実味を帯びてきます。収入や健康の変化は意識しやすい一方で、多くの人が見落としがちなのが、会社員や管理職といった肩書きが消えることによる“心の落差”です。これが、今回のテーマである「役割の崖」です。

<この記事の目的>役割の崖は、老後のお金や健康と同じくらい、生活満足度やメンタルに大きな影響を与えます。この記事では、50代シングル会社員が、定年後に「自分には何も残っていない」と感じないために、今からできる備え方を整理してみます。

読者のお悩み整理

50代シングル会社員の方とお話ししていると、こんな声を耳にします。

  • 定年後、「自分には何が残るんだろう」と考えると不安になる
  • 役職も肩書きもなくなったら、急に「ただの人」になってしまいそう
  • 仕事をやめた後の自分が家でどう過ごすか想像できない
  • 人間関係も、ほとんどが職場ベース。会社を離れたら付き合いが続くか分からない
  • 趣味もコミュニティもなく、何から手を付けていいか分からない

こうした不安は、決して“メンタルが弱いから”ではありません。長年「会社」「役職」をベースに自分の役割を積み重ねてきたからこそ、それが外れた後の自分をイメージしづらいのは、ある意味自然なことです。

「役割の崖」とは?──肩書きが消えた後に起きること

「役割の崖」とは、定年・退職・役職定年などによって社会的な肩書きや役割を失い、自分の存在意義や自己肯定感が揺らぐ現象を指します。

それまで当たり前のように名乗っていた「〇〇会社の△△」「部長」「課長」「専門職」といった看板が、ある日を境にスッと外れてしまう。その瞬間、仕事人としての自分だけでなく、「自分は何者なのか」という問いに直面する人も少なくありません。

特にシングルの場合、家庭内での役割(親・配偶者としての役割)が少ない分、仕事上の役割を失うダメージが想定よりストレートに自分に返ってきやすいという特徴があります。

「孤独の崖」との違いと、密接な関係

前回の記事では「孤独の崖」についてお伝えしました。こちらは主に、 人とのつながりが薄くなり、社会との接点が減ってしまう状態を指します。

一方で、今回の「役割の崖」は、肩書きや役割が消えることで、自分の価値や生きがいが揺らいでしまう状態 です。

役割の喪失感が強くなると、人とのつながりからも距離を置いてしまいがちです。孤独リスクについては、60の崖と準備③|定年後に迫る「孤独の崖」とその備え方でも取り上げています。

  • 孤独の崖: 外側の変化(人間関係・交流機会の減少)
  • 役割の崖: 内側の変化(役割喪失・自己肯定感の低下)

この2つは別物ですが、実際のところはセットで起きやすいという厄介な面があります。

  • 定年で肩書き・役割を失う(役割の崖)
  • 自信を失い、人付き合いを避けがちになる
  • 結果として人との交流が減り、孤立が進む(孤独の崖)

この悪循環を断ち切るには、「会社以外の役割」や「ゆるいつながり」を少しずつ増やしておくことが、とても重要になってきます。

図表で見る「社会活動」と生きがい感の関係

ここで、社会活動への参加と生活満足度・生きがい感の関係を示すデータをご紹介します。高齢者支援などの社会活動について調査した結果では、次のような傾向が見られます。

社会活動参加の有無と「生活満足度・生きがい感」

区分日常生活満足度生きがい感
社会活動参加者82.0%84.5%
非参加者70.8%64.2%

社会活動に参加して得られたメリット(複数回答)

参加者が感じたメリット割合
生活に充実感ができた47.9%
新しい友人が得られた36.5%
健康や体力に自信がついた33.1%
地域社会に貢献できた31.6%
お互いに助け合えた26.0%

このデータから分かるのは、「会社以外の活動に参加すること」が、日常生活の満足度や生きがい感を支えているということです。 つまり、「役割の崖」は、会社を離れる前に社会活動という“別ルートの役割”を仕込んでおくことで、かなり緩やかにできる可能性があります。

参考(上記グラフいずれも):共済総研レポート №182(2022年8月)「高齢者支援等の社会活動への参加とその効果について」

50代シングル会社員が今からできる4つの準備

では、具体的にどのような準備があるのか。50代のうちから取り組めることを4つに整理してみます。

① 仕事以外の「小さな役割」を作る

いきなり大きなプロジェクトに関わる必要はありません。まずは、こんな小さな役割からで十分です。

  • 地域のイベントやボランティアに、年に数回でも参加してみる
  • 趣味サークルやカルチャースクールに、月1回通ってみる
  • 資格や学び直しを通じて、「勉強仲間」とのつながりを作る
  • 推し活や共通の趣味を通じて、ゆるいつながりを増やす

ポイントは「会社の肩書きとは別の“自分の役割”を増やす」こと。 たとえば、「〇〇のボランティアで受付をしている人」「読書会でいつも感想をシェアしている人」など、“小さくても、誰かの役に立っている自分”を実感できる場を持っておくと、定年後の心の安定感が違ってきます。

新しい役割を作るためには、知識やスキルの「アップデート」も大切です。学びを止めたときに起こる変化については、60の崖と準備⑦|「アップデートの崖」学びを止めた瞬間に取り残されるで詳しく解説しています。

② ゆるいつながりを複数持っておく

「親友レベルの濃いつき合い」だけが人間関係ではありません。 むしろ定年後は、・ときどき顔を合わせる ・たまに近況をやりとりする といったゆるいつながりが、心の支えになるケースも多いです。

  • 行きつけのカフェやお店で、軽く挨拶を交わせる関係をつくる
  • オンラインコミュニティやSNSで、共通の趣味の仲間とゆるくつながる
  • 同窓会やOB会などに、年に1回だけでも顔を出しておく
  • ご近所さんに「おはようございます」「今日は寒いですね」くらいの一言を足す

役割の崖がやってきた時、「あの人たちに会いに行こう」「このコミュニティに顔を出そう」と思える場がいくつかあるかどうかで、心の落ち込み方は大きく変わってきます。

③ 「誰かに必要とされる」機会を少しづつ持つ

役割の崖がを感じてしまう一番の理由は、「誰からも必要とされていないのでは?」という感覚です。

逆に言えば、たとえ小さなことであっても、 「あなたがいて助かった」「頼んでよかった」 と言われる経験があると、「自分にはまだ役割がある」と感じやすくなります。

  • 得意分野で周囲の人をサポートしてみる(IT・手続き・書類作成など)
  • 仕事の経験を生かして、後輩や別部署の人にアドバイスする
  • 趣味の知識をシェアする場を作る(読書会、映画会、旅行情報の交換など)

大事なのは、「完璧なリーダーになること」ではなく、「自分なりの小さな役目」を持ってみることです。

④ 肩書きに頼らない“自分の軸”を持つ

現役のうちは、どうしても「会社名」「役職」が名刺代わりになりますが、定年後はそれらが一気に外れます。

そこで意識したいのが、「肩書きが無くても、自分は何を大事にして生きるか」という価値軸です。

  • 人の役に立つ情報を発信したい
  • 地域の中で小さくても貢献していたい
  • 学ぶことをやめず、好奇心を持ち続けたい
  • 無理なく働きながら、心と体の余裕を保ちたい

このような「自分の軸」がはっきりしていると、肩書きが外れても、「じゃあ、これからはこの軸に沿って動いていこう」と発想を切り替えやすくなります。

落とし穴:過去の肩書きにしがみつくほど、崖は深くなる

現役時代に高い役職に就いていた方ほど、定年後に「元〇〇会社 部長」「元△△企業 課長」といった肩書きを名刺に残したくなることがあります。

もちろん、それだけ努力されてきた証でもありますし、誇りを持つこと自体は悪いことではありません。ただ、「過去の肩書きに頼り続ける」状態が長く続くと、

  • 今の自分に自信が持てない
  • 新しい場所でフラットな関係を築きにくい
  • 「昔はすごかった自分」とのギャップが苦しくなる

といった別のつらさを生んでしまうこともあります。

肩書きはあくまで「その時期の役割」を示すもの。
定年後は、“肩書きがなくても通用する自分”をつくるチャンスと考えてみるのも一つの視点だと思います。

FPとうかの「役割の崖」対策

私自身も、将来「役割の崖」に直面する一人です。 その備えとして取り組んでいるのが、 ・FPとして学び続けること ・ブログで情報発信を続けることです。

会社の外でも、

  • 50代シングル会社員の方に役立つ情報を届ける
  • 老後のお金や働き方について、一緒に考える
  • 自分自身も、書くスキルを向上させながら学び直しを続ける

こうした活動を通じて、「会社の肩書き以外の役割」を少しずつ増やしていけたらと考えています。

まとめ:役割の崖は「新しい自分への入口」にできる

「役割の崖」は、収入や健康の変化に比べると目に見えにくい分、気づいた時には心がポキッと折れやすいポイントでもあります。

しかし、50代のうちから、

  • 仕事以外の小さな役割を持つ
  • ゆるいつながりを複数つくる
  • 「誰かに必要とされる経験」を増やす
  • 肩書きではなく「自分の軸」をはっきりさせる

といった準備をしておけば、役割の崖は「自分を失う瞬間」ではなく、「新しい自分を始める入口」に変えていくことができます。

次回は、「60の崖と準備⑤|居住の崖」について、一緒に考えていきたいと思います。

この記事を書いた人

FPとうか
ファイナンシャルプランナー1級/社会保険労務士試験合格者。50代シングル会社員向けに、老後資金・働き方・学び直しなど「これからの人生を整える情報」を発信しています。

▶ このシリーズのまとめはこちら(60の崖と準備まとめ


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