前回「ねんきん定期便」でご自身の年金額や年金記録をきちんと確認することをお勧めしましたが、日本年金機構の発表によると、2024年9月時点で「持ち主不明の年金記録」が1,689万件存在しています。過去には5,000万件を超えていたとも言われており、年金記録の確認は今も重要な課題です。
「うちは大企業だから安心」とは限らない
私自身、保険会社の人事や社会保険労務士事務所で勤務した経験があり、記録の不一致や誤登録の事例に数多く直面してきました。
新卒数百人分の厚生年金の手続きをして、年金手帳を本人にお渡ししていたこともあります。各所属に分別するだけでも膨大な数で、1件1件正確に処理していたつもりでも、登録時の人為的エラーなど、1件も絶対に起きていないと言い切れない気がします。
また外資系の会社などでは、厚生年金の手続きを海外の業者に代行させるというケースもありました。そうすると、日本語の登録にも一抹の不安を感じます。
「大企業だから安心」「一社でずっと勤めていたから大丈夫」と思いがちですが、実際には年金記録は自己責任でのチェックが重要です。
反映されていなかった国民年金の記録
特に多いのが「大学生時代の国民年金が反映されていない」というケースです。1991年3月以前は学生は任意加入だったため、支払い履歴がなければ「合算対象期間」扱いとなります。これは年金額の計算には含まれません。
学生の時の話ですので、会社も把握できない部分になります。もしかしたら親御さんが納付をしていた、あるいは学生の特例免除の手続きをしていれば、その記録が一本化されていないと、年金の金額が減ってしまう可能性があります。
また、転職の合間に国民年金に加入した場合や自営業で収入が低かった時期に保険料の免除を申請した場合もありえます、どのケースでも若干「ねんきん定期便」の記録が怪しい気がしたら年金事務所に届け出ましょう。記録が修正される可能性があります。
厚生年金の記録が違っていたケース
平成初期までは厚生年金番号と国民年金番号が別だった時代があり、氏名や生年月日などの誤登録が多く発生しました。以下は実際に業務で遭遇した例です:
- 氏名の漢字が異なる(例:「斉藤」の「斉」と「斎」)
- 読み仮名の登録ミス
- 生年月日の記録ミス(例:「1」と「7」)
- 標準報酬月額の数字入力ミス(例:「200千円」と「260千円」)
さらに、原則として退職日の翌日が「資格喪失日」なのですが、退職日の当日を「喪失日」として登録されているケースもあり、月末・月初をまたいでいる場合、1か月分の年金が抜け落ちる恐れもあります。
持ち主不明の記録の原因は?
冒頭にご案内しました未解明の年金記録の多くは、以下の3点に集約されるとされています。実際に業務で遭遇した例と共通しています。
- 結婚後の姓変更に伴う記録のズレ
- 読み仮名の誤記
- 転職のたびに年金手帳が発行された
独身の方でも、読み方が難しい名前の方や転職経験が多い方は、特に記録に漏れがないか注意が必要です。また、年金手帳を複数持っていましたら1つにまとめる手続きをしてください。
参考:年金手帳が複数冊あります。どうすればいいですか。(日本年金機構)
ねんきん定期便で必ずチェックを
もしも記録のズレが疑われる場合は、年金手帳や保険料の支払記録、勤務証明書などを持参し、年金事務所で修正の手続きを行うことができます。
年金は「老後のお金」だけではなく、障害状態や死亡時の家族の生活にも関わる大切な社会保障です。小さな記録ミスでも、受給額に大きな差が出ることもあります。
面倒かもしれませんが、今一度、ご自身の記録をじっくり確認してみてください。ご自身の未来の安心のために。